2012.02.20
厚生労働省が障害者自立支援法に代わり2013年4月の施行を目指すとした新法に対し、障害者らから批判が巻き起こっている。廃止するとしていた現行法の一部修正にとどめ、抜本的な見直しを先送りする内容だからだ。
自立支援法は06年に施行された。福祉サービスを利用するごとに料金がかかる「応益負担」や、障害の状態に応じてサービス内容や支給量が決まる「障害程度区分」が導入され、障害者が生活に必要なサービスを受けられない事態が起きた。
憲法が保障する生存権に反するなどとして岡山、広島など全国14地裁で違憲訴訟が起こされ、国は新たな法律を制定することを約束して和解した。これを受け政府の「障がい者制度改革推進会議」の部会が昨年8月に新法の骨格提言をまとめた。
しかし、今回の厚労省案はこの提言をほとんど反映していない。福祉サービスの原則無料化は見送り、障害程度区分は施行後5年をめどに検討するとした。具体的に盛り込んだのは難病を対象に含めることと一部サービスの一元化くらいである。
応益負担は既に所得に応じた軽減措置がとられているが、そもそも生活に不可欠な福祉サービスに自己負担を課すことには問題が多い。介護保険の要介護認定をモデルとした障害程度区分は障害者の生活やニーズを反映していないのが実態だ。厚労省案からは、こうした問題点に向き合う姿勢が見えない。
厚労省は現行法を廃止すれば、すべてのサービス事業者を指定し直す必要があり、自治体や事業者の負担が増すとしている。だが、実際には財源確保のハードルが高いのだろう。
確かに提言の内容は実現性が危ぶまれるものも少なくない。ただ、障害者を中心とした55人もの推進会議の部会メンバーが1年半に及ぶ議論を経てまとめたものだ。ゼロ回答に近い厚労省案はあまりに不誠実と言わざるを得ない。
現行法廃止の約束を事実上反故(ほご)にした民主党政権の責任は大きい。違憲訴訟の元原告らが「基本合意は政治情勢の変動にかかわらず国家として順守すべきだ」と抗議したのは当然だ。
自立支援法はもともと介護保険との統合を視野に成立を急いだ経緯があり、障害者福祉の実態にそぐわない部分が多い。政府は「共生社会の実現」という新法の理念を言葉だけで終わらせず、財源も含めてしっかり議論し、制度の再構築を進めるべきだろう。