2010.07.22
◆(私の視点)地域主権法案 障害者福祉に格差出ないか 太田修平
(2010年07月22日 朝日新聞 朝刊 オピニオン1 017)
地域主権推進一括法案は先の通常国会で継続審議となったが、障害者の権利を後退させる、という重大な問題をはらんでいる。私たちが勝ち取ってきた改革が台なしにされようとしており、このまま成立させてはならないと考える。
障害者が生活する施設の居室定員について、まず指摘したい。厚生労働省は身体障害者療護施設の設置基準として、居室定員を4人以下と定めてきた。自治体はこれを守る義務がある。さらに国は、1人部屋か2人部屋を推奨し、施設設置者に対する指導によって個室がかなり増えてきた。
法案が通ると、定員に関する国の基準は「参酌すべき基準」となる。国の基準を目安にしなければいけないが、自治体はそれに拘束されず、条例で自由に定められるようになる。自治体の自由に任せると、財政力の強弱や、障害者福祉に理解があるかどうかで、自治体間に大きな格差が出てしまい、雑居部屋が増えてしまう恐れもある。今の日本では自明のことだ。
施設については個人的な思い出もある。障害が重いために、生活施設での暮らしを余儀なくされている障害者はたくさんいるが、私も30年前は施設で暮らしていた。
当初は3人部屋という状況だった。一番つらいのは夜間で、いびきや歯ぎしり、同室者のトイレ介助などで、なかなか安眠できなかった。青年期を迎えていた私は、プライベート空間がほしいと強く感じた。
施設には、入居者の自治会があった。3人部屋の解消と、プライバシーが守られる個室化を求めて、施設管理者や設置者の自治体に対して運動を起こし、自治会役員として運動の戦列に立った。完全個室化が実現したのは約15年後、1990年代になってからだ。運動は、他の施設の入居者や自治会、障害者団体にも影響を与えた。
一括法案が成立すると、新バリアフリー法にも新しい問題が起きる。自治体は、生活や移動をするうえでの支障を取り除くため、「移動円滑化基本構想」を策定することになっていて、障害者など当事者の参画が義務付けられている。ところが、法案が通ると、自治体の裁量に任されることになる。当事者参画は時代の流れであり、ナショナルミニマム(国の最低基準)として保障されなければならない。
北欧のように地方分権と福祉社会は両立するはずだ。それには市民社会の成熟が欠かせない。他者の立場になって考え、弱い立場の人たちの人権を尊重する意識や風土が定着しているかどうかにかかっている。
国の障がい者制度改革推進会議が当事者参画のもとに動き出した。障害者自立支援法に代わる新法の議論も進められている。社会福祉分野のナショナルミニマムを明確にするよう、地域主権推進一括法案の修正を求めていきたい。
(おおたしゅうへい 日本障害者協議会理事)