2011.08.07
「すべての人の社会」 2011年7月号
日本障害者協議会常務理事 藤井 克徳
障がい者制度改革推進会議(以下、推進会議)の初仕事は思いのほか苦戦を強いられた。「初仕事」とは障害者基本法の抜本改正であり、「思いのほか」とは最終局面での官僚の猛反撃であり、とくに政治の力が期待外れに終わったことである。猛反撃の勢いは、改正法案の国会提出後も衰えることなく、そのままゴールに飛び込まれた感じである。
推進会議が担っている課題と行程について復習しておく。大きくは3点で、
(1)障害者基本法の抜本改正。2011年の常会(通常国会)、
(2)障害者総合福祉法の制定。2012年の常会、
(3)障害者差別禁止法の制定。2013年の常会、
5年間の集中改革期間でこれらを成就しようというのである。
着眼すべきは、それぞれの法律が重要であるのと同時に、3つの法律が内容面で連関していることである。イメージで言うならば、3段ロケットを思い浮かべてほしい。第1段目が予定通りの位置に上がってくれれば、2段目はスムーズな軌跡を辿りやすく、3段目の成功の可能性も広がってくる。その意味で、第1段目を担った基本法改正の苦戦は痛かった。
ここで問われたのは日本障害者協議会(JD)の対応であり、日本障害フォーラム(JDF)も随分と悩んだ。結論から言えば、両者ともほぼ共通の視点で改正法案に賛意を表すこととした。ぎりぎりの判断だった。簡単にしか紹介できないが、賛意の理由は以下の3点である。
第1は、推進会議の存在と努力を無にしたくなかったということである。三十数回もの審議を重ねてきた推進会議であり(1回あたりの審議時間は4時間程度)、何も形を残せないというのはあまりに虚しく、不十分ではあっても成果を確認し次への足掛かりを残しておきたかったのである。
第2は、次なるメインテーマとなる障害者総合福祉法の法案作りに影響力を持たせたかっためである。法案作りは厚労省が担うことになるが、強力ではないにせよ枠をかせることの意味は少なくないはずである。
第3は、改正法で新設となる障害者政策委員会の役割の大きさであり、これに期待をかけるべきではということである。急速に政治の先行きが怪しくなっている中で推進会議の発展形ともなる障害者政策委員会を早期に立ち上げた方が実質的との立場に立ったのである。
最後に、問題点と改善点を象徴する条項を掲げておく。まず問題点であるが、「可能な限り」という冷や水を浴びせるような表現が要所要所に登場していることである。例えば、原則条項とされている第3条2項で「全て障害者は(可能な限り、どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと。」といった具合である。「可能な限り」が付加された途端に、以降に連なる文言はその価値を一挙に衰弱させられることとなろう。改善点としては、言語に手話が含まれる旨が明記されたことに加えて前述した政策委員会に、総理大臣等の国務大臣に勧告できる権限と応答義務が明記されたことである。
法律は運用や活用によって力を増すことがあり得る。当面は、障害者総合福祉法や障害者差別禁止法の制定に向けて、改正法のポジティブな側面をフルに活かすことであろう。早晩、権利条約の批准話が持ち上がることになろうが、次なるチャンスは批准直後の改正となろう。これらを一体的に捉え、具体化を展望した時に、ようやく今般の改正が本物となるのではなかろうか。