2010.02.27
◆障害者負担なお重く 今春から暫定の軽減措置 サービス利用時間に制限
政府は、福祉サービスの利用に応じて障害者に原則1割の自己負担を課す障害者自立支援法の廃止を決め、新たな福祉制度の導入に向けて議論を始めた。支援法が廃止されるまで、低所得者の負担を軽減する措置が取られるが、当事者から「地域で安心して暮らすにはなお課題がある」との声があがる。(森本美紀)
厚労省は1月、支援法は憲法違反だとして国を訴えていた原告・弁護団と、支援法を廃止して2013年8月までに新法を制定することなどについて基本合意を交わした。
自立支援法が廃止されるまでは負担軽減措置が取られる。4月から福祉サービスと車いすなどの補装具の購入や修理について、低所得者(市町村民税が非課税)は無料となる予定で、サービス利用者の約8割にあたる約39万人が対象だ。
ただし、サービスの利用時間には制約がある。
堺市ではり治療院を営む土屋久美子さん(44)は、市民税が非課税のため、4月から、月36時間利用している居宅介護(ホームヘルプ)の自己負担、月3千円が無料になる見通しだ。
生まれつき目が見えず、料理や掃除、書類の読み書きなどをヘルパーに依頼する。収入は障害基礎年金と治療院の収入で月15万円ほど。高校生の子どもの学費や、自身が外出する際の移動支援(ガイドヘルプ)代などもかさみ、余裕はない。「たとえ3千円でも家計には大きい。当たり前の生活をするのに必要な支援にまで負担を課すのはおかしい、と国がわかってくれたことがうれしい」
ただ、市から認められた利用時間では十分ではないため、金曜午前の3時間は、全額自己負担でヘルパーを依頼している。費用は月約1万円。負担が重く、土日の利用は控えざるを得ないという。
和歌山市の大谷真之さん(35)は課税世帯のため、重度訪問介護の月9300円の負担は続く。障害者が地域で自立して暮らせるよう、ヘルパー派遣事業所を運営しているが、経営は厳しく、生活は楽ではない。
生まれつきの脳性まひで、手足が自由に動かせず、家でも車いすの生活。今の生活を続けるには、食事やトイレの介助をしてくれるヘルパーの支援が欠かせない。現在利用できるのは月190時間。毎日朝と晩に来てもらっているが、土日の晩は1時間短くせざるを得ず、入浴を控えてトイレを我慢する時間も長くなっているという。
「僕の望みは、当たり前の生活をすること。将来は結婚もしたい。そして、幸せやったと思って死んでいきたいだけなんです。障害があるために何かを我慢しなければならない社会を変えていきたい。障害者の声を取り入れた法律ができるかどうか。これからが本当の闘いです」
障害者団体に勤める東京都の家平悟さん(38)は、本人は「非課税」だが、共働きの妻(36)が課税者で「課税世帯」とみなされるため、無料化の対象にならない。
家平さんには重い身体障害があり、首から下はほとんど動かない。毎日、朝と晩に食事や着替えなどのホームヘルプを利用し、外出にはガイドヘルパーを伴う。こうした支援にかかる自己負担は月に計1万8600円。車いすなどの修理代も「非課税」なら無料になるが、課税世帯では上限月額が3万7200円。4歳と乳児の息子2人の教育費など、将来への貯金もままならない。
「身の回りのことは最低限、自分でやるという思いで結婚した。障害の負担を家族にまで押しつけるのは、『家族に面倒をみてもらえ』というのと同じで、自立支援にはつながらない」
◇自立支援法訴訟の原告と国の基本合意
・憲法13条(個人の尊厳)、14条(平等権)、25条(生存権)の理念に基づき、違憲訴訟を提訴した原告らの思いに共感する
・障害者自立支援法を障害者の意見を十分に踏まえず施行し、応益(定率)負担を導入したことにより、多大な混乱と生活への悪影響を招き、障害者の人間としての尊厳を深く傷つけたことに対し、原告らをはじめとする障害者、及びその家族に心から反省の意を表明する
・新たな総合的な福祉制度を制定するに当たっては、障害者の参画のもとに十分な議論を行う