2012.04.01
日本障害者協議会常務理事 藤井 克徳
盲ろう分野のリーダーでもある福島さとしさんの話はユーモアの中にも核心を突いていた。去る3月8日に開かれた民主党による障害関連団体を対象とした障害者総合支援法案の説明会の席上だった。「民主党に投票すれば自立支援法を廃止すると言われ、少なくない障害者と家族、関係者は投票用紙に民主党の候補者名を書き込んだに違いない。廃止を御破算にすると言うのであればそれは振り込め詐欺ならぬ書き込め詐欺になるのでは」こんな主旨だったが、これへの民主党側からのコメントはなかった。答えづらかったのだろう。
骨格提言と新法案との乖離が決定的になったのは、第19回総合福祉部会(2月8日)だった。この日に厚労省より素案なるものが発表されたが、その貧寒ぶりは後に総合福祉部会の佐藤久夫部会長から示された「厚労省による骨格提言への対応と障害者総合福祉法の骨格に関する提言との比較表」で如実に表れている。民主党としては、「2月8日の時点からはだいぶ修正した」と言いたかったのだろうが、3月8日の説明会の雰囲気はそれを許さなかった。内容面の不十分さと合わせて与党の政治主導の弱さへの不満が渦巻いていたように思う。最初に官僚側から水準の低いものが示され、与党の発表段階で心もち引き上げられるというのが霞が関や永田町界隈での常套手段であったが、残念ながらこの古典的なセオリーが今回もまたくり返されたと言わざるを得ない。
ところで、気になるのはポスト自立支援法問題の社会全体の受け止め方だ。結論から言えば、予想以上の反応であり、反応だけではなくその内容が骨格提言の支持を含めて私たちの主張を好意的にとらえていることである。このことを表す事象を二つあげておく。一つは、地方議会での「障害者総合福祉法」に関する意見書の採択が相次いでいることだ。4月5日時点での採択数は、12県、8政令指定都市、163市区町村に上る。その大半が、骨格提言を基本に障害者総合福祉法の制定をというものである。ほとんどの議会が全会一致で採択している。受ける側の国会と政府はその重みをしかと認識すべきだ。
今一つは、新聞の論調である。際立っているのが地方紙の社説で、国への批判的な見解で論旨が共通している。掲載日付順に社名とタイトルをあげると以下の通りとなる(2月と3月の掲載分)。京都新聞「障害者自立支援 見当たらぬ政治の反省」、神奈川新聞「障害者総合福祉法 提言の無視は許されぬ」、東京新聞「障害者の新法 現場の声を忘れるな」、山陽新聞「自立支援法見直しに政治は責任持て」、信濃毎日新聞「障害者支援法 廃止と新法制定が筋だ」、神戸新聞「障害者支援法 到底納得できない内容だ」、北海道新聞「障害者支援法 『改正』では約束が違う」、中国新聞「障害者支援の行方 公約違反 繰り返すのか」、高知新聞「『自立支援法』国は廃止の約束を守れ」、愛媛新聞「障害者自立支援法 理念も約束もほごにした政官」。
有力与党議員の何人もが「ねじれ国会でなければ廃止になったはず」「ねじれの中で法案を成立させるためには妥協しかない」を口にする。しかし、政界内の「ねじれ」のみに目が奪われているうちに、社会全体との「ねじれ」が増していくようでは元も子もなくなる。この点では野党の責任や役割も少なくないはずだ。いよいよ国会の表舞台に登場するポスト自立支援法問題であるが、くれぐれも立法府の一人相撲は勘弁願いたい。社会に通用する審議や法律づくりとしていくためには、地方議会の意向や各紙社説に耳を傾けることであり、何より基本合意と骨格提言に立ち返ることではなかろうか。