画像クリックで拡大
2012.10.21
障害者総合支援法 病名で対象線引き
難病患者を行政の福祉サービスの対象に加えたことが“前進”とされる「障害者総合支援法」。来年春に施行されるが、国は対象を一定の病気に絞る考えだ。「制度の谷間」に取り残されるかもしれない患者たちは、危機感を募らせている。
宇都宮市の岡本寿美子さん(56)は筋痛性脳脊髄炎を患い20年以上になる。慢性疲労症候群とも呼ばれるこの難病は、日常生活も送れないほど疲れたり衰弱したりすることがある。岡本さんは症状が重く、ほぼ寝たきりだ。
自治体が障害者に身の回りの世話などを提供する福祉サービスを受けようとしても、「制度に合致しない」と拒まれ続けた。今の「障害者自立支援法」は身体・知的・精神障害者が対象で、身体障害者の定義は「永続し、一定以上の障害があるもの」。岡本さんのように症状が測定しにくかったり、変わりやすかったりする難病患者は対象外とされることが多いのが実情だ。
家族の介護や家事の負担は重く、ヘルパー代が月10万円を超えることも続いた。医師が病状と支援の必要性を記した書面をつけて障害者手帳を市に申請しようとしたが、窓口で門前払いされた。患者会の支援で働きかけを続け、最近ようやく認められた。
自立支援法を改正し、名前も変える形で来年4月に施行される総合支援法では、障害者の定義に初めて難病が加わる。ただ、拡大は「政令で定める疾病」に限られる。厚生労働省が、難病支援全体を見直す難病対策委員会の議論を踏まえ、検討している。
筋痛性脳脊髄炎は「診断が難しい」といった理由で対象に入らない見通しだ。岡本さんは「これからも多くの患者が、自分と同じ苦労をしなければならない」。
制度の対象を病名に基づいて決める限り、難病患者の中に「格差」が生まれてしまう。こうした問題意識は関係者の間に広がっている。
「病名で区切ると、制度の谷間は解消されない」。難病や慢性疾患の厳しい現状を知ってもらおうと、患者たちが今月、東京都内で開いたシンポジウム。「タニマーによる、制度の谷間をなくす会」を結成し、この問題を発信していくことを決めた。
難病対策で病名による「線引き」が問題になるのは、国の医療費や研究費助成でも見られた構図だ。数千ある難病のうち研究費の助成対象は130で、医療費も助成されるのは56。今回の難病支援の見直しでも、それぞれの患者団体が指定を受けようと要望活動を続けている。
「谷間をなくす会」のメンバー青木志帆弁護士(31)は、「これまで難病患者たちは分断されてきた。障害者福祉サービスの対象を症状の重さや生活の困難さで判断する仕組みにしないと、また同じことを強いられる」と訴える。
一方、福祉サービスの拡大に一定の評価をする患者団体もある。日本難病・疾病団体協議会の伊藤たてお代表理事は「限定的であっても難病が対象になったのは運動の成果。まず風穴を開け、支援を発展させていきたい」という。
厚労省は、症状にはあいまいな面があり病名を基準とするのが合理的、との立場だ。「税金を使う以上、対象が明確なことが必要」と担当者。
難病対策委の金沢一郎委員長(国際医療福祉大大学院長)は、こう指摘する。「制度の範囲を広げるには財源が必要。国民全体でどこまで負担するか考えていかなければならない」