2012.02.27
厚生労働省が今国会に提出する障害者自立支援法改正案の概要がまとまった。
だが、支援法の廃止と新たな法律の制定は、2009年衆院選での民主党の政権公約だ。支援法をめぐる違憲訴訟で原告と国が和解時に交わした合意文書にも、それが盛り込まれている。
部分的な改正で済ますのは約束違反である。無責任と言うしかない。
現行法は2006年4月に施行された。身体、知的、精神の障害ごとに分かれていた福祉サービスを一元化し、地域での自立や就労を支援する。その理念、方向性は評価できた。
大きな問題は、受けるサービス量に応じて原則1割を自己負担とする「応益負担」としたことだ。そのため、より多くのサービスが必要な重度の人ほど負担が重くなり、神戸など全国14地裁で障害者らが違憲訴訟を起こした。
和解ではその点に触れ、混乱を起こしたことを反省し、13年8月までに新制度を実施するとした。そのことを国は忘れてはならない。
新法の制定に向け、障害者やその家族が委員の過半数を占める「障がい者制度改革推進会議」が発足した。さらに部会で55人のメンバーが約1年半議論し、昨年8月に骨格となる提言をまとめた。
ところが、厚労省の改正案に反映されたのは、法律名の変更と理念や目的の規定、サービスの対象者に難病患者を追加することなど、一部にとどまる。
一方で、支援の必要度が実態に合っていないとの指摘がある障害程度区分については、施行5年後をめどに見直すと先延ばしした。就労支援の在り方についても同時期に再検討するという。
これでは、障害者団体や元原告らから「和解時の基本合意と相いれない」などと批判や抗議が相次ぐのも当然だ。
提言は当事者らが何度も議論を重ねてまとめた。全てに沿う新法は財源などから難しいとしても、もっと反映させる努力が要る。無理な項目についてはその理由を丁寧に説明するべきだ。
厚労省は、支援法を廃止すると全ての事業者を指定し直す必要があり、自治体などの負担が増す上、新法制定には野党の協力が得られないとして、改正手続きで対応したい考えだ。改正案は支援法の「事実上の廃止」ともいう。
名前を変え、共生社会の実現や社会的障壁の除去を理念に掲げたところで、肝心の中身がほぼ同じでは到底納得できない。提言にもう一度立ち返り、中身の再考を求めたい。