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2010.06.11
曇り空に掲げられた「怒」「廃案」と書かれた黄色いビラ。今月八日、東京・永田町の議員会館前で、障害者自立支援法の一部改正案に反対する全国の障害者らが「国会前大集会」を開催。約二千人(主催者発表)が、「私たちのことを、私たち抜きに決めないで」と声を張り上げた。
改正案は先月下旬、超党派の形で提案され、衆議院では民主、自民、公明各党の賛成で可決。十六日までが会期の参議院本会議での審議を待つ状態だ。
内容は自民、公明両党が四月に提案した法案とほぼ同じで、集会の参加者からは「他の法案を通したい与党が野党と取引した」といぶかる声も。障害者自立支援法違憲訴訟の元原告五十嵐良さん(36)=さいたま市=は、「改正案が出てきてから怒りの毎日。廃案にしたい」と訴えた。
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同法をめぐっては、民主党は衆院選マニフェストで廃止を掲げ、今年一月、全国の違憲訴訟の原告側と国が現行法の廃止を盛り込んだ基本合意書を締結。「二〇一三年八月までに当事者の意見を十分聞いて新法を作る」という約束の下、三月のさいたま地裁を皮切りに全国で和解が結ばれ、裁判は終結した。
実際に国と当事者との話し合いの場として、内閣府に「障がい者制度改革推進会議」が設置され、新法制定に向けた協議がスタート。しかし、今回の改正案はその場への説明なしに突然出てきた。
障害者側は、改正案では同法で問題視された「応益負担」が完全に撤廃されていないことなどを批判。同推進会議にも一切の事前説明がなく、新法制定までの「つなぎ」としながら時限立法と明示されていないことから、信頼関係が大きく揺らいだ。「現行法の廃止」という根本の約束すら守られないのではないか、という不安が広がっている。
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「まさかこんなことになるなんて…」。集会にも参加した川口市の新井たかねさん(63)は、そう言って寂しそうに笑った。長女の育代さん(38)は脳性まひで知的障害があり、違憲訴訟の元原告だ。
新井さん自身、自分たちの声が届いたからこそ、民主党がマニフェストに「廃止」を盛り込むに至ったという思いがある。基本合意をまとめる協議にも参加していただけに、「ここにきて裏切られるとは」と憤る。
新井さんによると、すべての違憲訴訟が終結した四月二十一日、元原告らを首相官邸で迎えた鳩山由紀夫前首相は一人一人と握手して回り、求めに応じて「エイエイオー」と新法制定に向けた意欲を示したという。
それから一カ月余りでの突然の同法改正の動き。元原告らは改正案の廃案を求めて国会議員を訪ねているが、「基本合意の内容に沿っている」とあいまいな答えしか返ってこず、問題意識は共有されないままだ。
新井さんは「今国会での廃案が第一」とした上で、参院選に向けて「当事者の声を聞いて新法を作るというのが約束。あらためてマニフェストで、自立支援法に対する立場を明示してほしい」と望んだ。 (井上仁)
<障害者自立支援法> 2006年に施行。障害者が福祉サービス利用料を所得に応じて支払う従来の「応能負担」から、一律に原則1割を負担する応益負担に転換され、障害が重く福祉サービスが必要な人ほど自己負担が増えることになった。08年10月以降、障害者らが「同法は生存権の侵害で憲法違反」として全国14地裁に提訴。国は当初争っていたが、民主党が昨夏の衆院選マニフェストで同法廃止を明示。政権交代後に裁判の方針が転換され、原告側と廃止で合意していた。
★写真★
議員会館前の集会で障害者自立支援法の改正案に反対する障害者ら
=東京都千代田区で