2008.08.06
第36回社会保障審議会・障害者部会ヒアリング資料
<2008年8月6日>
障害者自立支援法の見直しに向けての意見
団体名;きょうされん
代表者;理事長 西村 直
発表者;副理事長 斎藤なを子
障害者自立支援法(以下「自立支援法」)が施行されて2年4ヵ月が経過しましたが、これがもたらした影響は甚大かつ広範なものとなり、この間、二度にわたる大幅な運用見直しが実施されました。しかし、自立支援法の骨格は維持されたままとなっており、当事者及び家族の不安、事業者の将来への不透明感は依然として根強く残されています。
障害のある人たちの生活実態と人間としてあたりまえに生きていきたいという願いに寄り添った、自立支援法の真の「抜本的見直し」となるよう、貴部会での審議を切望するものです。あわせて、これまで積み残されてきた障害施策全般の諸課題を前進させていく道筋をつけていただくことを期待しております。
以下、当会としての意見を申し述べます。
1.見直しにあたって
(1) 自立支援法施行による具体的影響と実態の検証、評価を施設退所、利用抑制、利用料の滞納など、自立支援法の施行により、当事者の地域生活の後退を招く事態が様々に生じました。これらの具体的影響をあらためて把握し直し、その要因の分析と評価のうえにたっての見直しをすすめるべきです。その際、統計的データのみならず、一人ひとりの具体的な生活実態に即した検証が求められます。
(2) 国際基準に照らした見直しを
障害者権利条約やWHO国際生活機能分類(ICF)、ILO159号条約など、障害のある人々の諸権利に関する国際基準に照らしていくことを、見直しの基底に据えるべきです。とりわけ、障害者権利条約の批准に際して必要となる国内法整備の課題と今般の自立支援法の見直しを強く関連づけて、その内容をわが国のすべての障害のある人々の権利水準を引き上げる方向としていくことが必要です。
2.見直し内容に関しての意見
(1) 応益負担など費用負担制度について
応益負担制度は、障害のある人が、同年齢の市民と同等に生きていくうえでの最低限の支援を公的に保障する立場からこれを廃止するべきです。また、給食費などの実費負担もいったんは廃止し、負担のあり方について十分に議論を尽くすべきです。
(2) 小規模作業所・地域活動支援センターについて
地域活動支援センターを市町村事業としたことにより、小規模作業所をいっそう混乱させる事態を招き、地域間格差も著しくひろがっています。小規模作業所を他の事業体系と同等に位置づけることが、「小規模作業所の法定事業化」という真の問題解決の方向性です。よって地域活動支援センターは廃止し、小規模作業所の法定事業化等への支援策を十分な経過期間を設けて拡充すべきです。また、小規模作業所が存続する間は、国と地方自治体は最低でも従来の補助金制度を継続させるべきです。
(3) 事業体系について
新事業体系は、「訓練」と「介護」という狭い枠組みとなっていること、体系全般が依然として複雑であることなど、さらなる再編が不可欠です。すべての事業を義務経費に位置づけ、日中活動の場は、厚生労働科学研究の提言(*注)に基づき、「一般就労・自営」「社会支援雇用」「デイアクティビティセンター」に再編するべきです。とりわけ就労部分については、労働行政施策との有機的な連結を図り、日本版保護雇用制度を確立していくべきです。
*注/厚生労働科学研究「障害者(児)の地域移行に関連させた身体障害・知的障害関係施設の機能の体系的なあり方に関する研究」のうち、作業施設(福祉的就労)共同研究グループによる『日本版保護雇用(社会支援雇用)制度の創設に向けて』(2003年度〜2004年度)
(4) 障害程度区分について
現行では、障害程度区分によって支援内容と量が決められることとなり、本人の希望や障害実態、個々のおかれた状況を適切に反映したものとはなっていません。障害のある人が必要とする支援は、ADLレベルの介護のみならず、見守りから社会参加支援まで幅ひろいものです。一人ひとりのニーズと環境要因により必要な支援を決定する新たなしくみを構築し直すべきです。
(5) 事業者の報酬等の基準について
事業者の経営基盤が大きく揺らいでいるもとで、給与の切り下げや非正規化など障害者支援に従事する人々の労働条件の急激な低下が進行し、人材確保に困難をきわめている現状にあります。従事者の待遇水準は、そのまま障害のある人への支援の質に直結します。事業者への公費額を自立支援法施行以前の水準まで戻すとともに、報酬の日払い方式や加算減算などの成果主義的なあり方、人員基準の常勤換算方式はやめるべきです。
(6) 社会資源の拡充について
わが国の障害のある人々の政策の立ち遅れを最も象徴する現象に、働く場や生活の場、居宅支援といった基幹的な社会資源の量的な不足があげられます。社会的入院問題の解消や入所施設からの地域移行がすすまない要因や、施設機能を高めにくい背景に、こうした社会資源の不足との関係が指摘されます。障害関連の社会資源を短期間に拡充(増量)していくための時限立法の制定など法的な手段を講じるべきです。
(7) 障害施策の基幹的課題について
障害者基本法の定時改正もすすめられる機を活かし、自立支援法の見直しにとどまることなく、障害分野における長年の懸案である、成人期障害者の扶養義務制度の改正、差別禁止法の制定、総合福祉法の制定、本格的な所得保障制度の確立、障害定義と認定・等級制度の改訂、障害関連予算の正確な見積りと分配などの基幹的な課題について、向こう5年くらいのうちに、具体的な目途をつけていくべきです。