2012.03.04
民主党政権は、マニフェスト(政権公約)で廃止するとした障害者自立支援法を事実上延命させる方針を決めた。一部改正案を今国会に提出する。
同法は自公政権時代の2006年に施行された。受けるサービス量に応じて利用者に負担を求める「応益負担」のため、症状が重い人ほど支払いが増えると批判を浴びた。
そんな法の廃止を諦め、改正にとどめたのは、新法制定では条例の書き換えで自治体の負担が増えるうえ、野党が反対し、成立の見通しが立たないためだとしている。
重大な約束違反である。
同法の違憲訴訟では、国が13年8月までの廃止を確約したことで10年、原告は国と和解した。方針転換はこの司法決着を裏切るものだ。
政権はその後、同法廃止と、収入に応じて利用料を支払う「応能負担」の考えに基づく新法の制定を閣議決定もしている。
これを受け昨夏、障害者や研究者でつくる政府の障がい者制度改革推進会議から、新法の骨格の提言を受けた。
手続きの煩雑さや政局の不透明さは、断念の理由にはなるまい。新法案提出の責任を果たし、決着は国会に委ねるのが筋だ。
改正案は名称を障害者総合支援法に変え、福祉サービスの対象に難病患者も加える内容だ。
厚生労働省は「事実上、現行法の廃止に等しい」と説明する。しかし、提言が求めた内容とはほど遠い。
とりわけ問題なのは、障害程度区分の廃止が見送られたことだ。
区分は必要な福祉サービスを決める目安で、心身の状態に応じて6段階のいずれかに判定される。
ところが、同じ区分でも一人一人状況が違うのに、生活実態や本人の要望をきめ細かく考慮せずにサービス内容が決まる。特に精神、知的障害者では支援の必要性が低く判定される問題点が指摘されていた。
提言は区分をやめ、本人の意向を尊重するよう求めたが、見直しを先送りした。これでは現状と変わらない。当事者の声を反映する仕組みを早急に検討すべきだ。
提言にある利用料の原則無料化にも触れていない。厚労省は10年から低所得者を無料にし、事実上応能負担になっているためとしている。
しかし、低所得かどうかは配偶者の所得も合算して判断している。改正後もこの手続きが残る見通しで、無料対象者は増えないだろう。
改正案には共生社会の実現といった新たな理念を盛り込む。だがいくら立派な「表紙」をつけても中身が伴わなければ意味がない。提言の原点に立ち返って見直す必要がある。