2012.03.05
政府は今月中旬にも障害者自立支援法の改正案を閣議決定し今国会に提出するという。
民主党は2009年総選挙のマニフェスト(政権公約)で、自立支援法の廃止を掲げていた。政権を担ってからも一貫して新法の制定をうたってきた。
それをいまさら事実上の法改正でとどめるとすれば、公約違反との批判は免れないだろう。
確かに改正案は、自立支援法に抜け落ちていた「共生社会の実現」「社会的障壁の除去」を立法の理念として明記するという。名称も「障害者生活総合支援法」へと変更する。
とはいえ、その中身は法改正にほかならない。単なる看板の掛け替えであり、これでは「正心誠意」という野田政権のモットーも色あせてしまう。またもや政治の「軽さ」が、国民に不信感を与えるのだろうか。
06年に施行された障害者自立支援法の特徴は、サービス利用料の1割を支払う「応益負担」や、サービスの種類や量を決める目安となる障害程度区分を導入した点だ。
だが、当初から現場は混乱した。経済的な負担からサービスの利用を控える人が出てきたのだ。障害程度区分によって従来の支援が受けられなくなったケースも相次いだ。
憲法25条が保障する生存権に反するとし、障害者たちが国を相手に起こした違憲訴訟は全国14地裁に広がった。そこでも国は原告側に、自立支援法の廃止と新法制定を約束して和解した経緯がある。
これをほごにしてまで野田政権が自立支援法の枠組みの維持にこだわるのは、事務的な理由もあるようだ。
もし廃止した場合、すべてのサービス事業者を指定し直す必要があり、自治体や事業者の負担が増すと政府は説明する。
さらに自民、公明両党の協力を取り付けたい与党側の思惑も働いているとみられる。自立支援法は両党の連立政権時代の産物だからだ。どちらを向いて政策を練っているのだろう。
改正案をまとめる過程にも不誠実さを感じる。障害者たちが制度改革のためにまとめた「骨格提言」の扱いである。
政府は内閣府の諮問機関として推進会議を設け、障害者や関係団体代表らを部会メンバーに招いた。20回近くの会合を重ね、意見を集約してまとめたのが60項目に及ぶ提言だった。
ところが、改正案に取り入れられたものはごく一部にとどまる。障害者から「意見が反映されていない」と反発や失望の声が上がるのは無理もなかろう。
提言にあった「利用者負担の原則無償化」は、過去の法改正で今年4月から所得に応じた「応能負担」となるため、今回は見直さない方針だ。
その点は分からなくもないが、障害程度区分や就労支援の見直しについても先送りする理由は理解できない。
中には財源的に実行が難しい提案もあるだろう。だが軽率な取り扱いでは済まされまい。
今回の法改正が、サービス給付の地域格差解消や福祉従事者の処遇改善に向けた抜本的な解決につながるとも思えない。
政府は閣議決定を遅らせてでも、骨格提言をもう一度丁寧に洗い直してもらいたい。法案に反映できない項目は、その理由を丁寧に説明すべきだ。