2012.05.12
障害者ら「また裏切り」/提言の「無料化」反映されず
政府が今国会での成立を目指している障害者総合支援法案に、障害者らが強く反発している。現行の障害者自立支援法に代わり、民主党が政権奪取時に公約した新たな法制度だが、障害者らと一緒にまとめた「サービスの原則無料化」などの提言の多くが反映されず、現行法の枠組みをほぼ踏襲しているためだ。「これも公約違反か」。新法案を信じて裁判で和解した元原告たちに民主政権への幻滅が広がっている。
「今までやってきたことはなんだったんだ」。元原告の一人で、下肢障害のある平島龍磨さん(44)=福岡県福智町=は新法案の内容を知り、むなしさでやりきれなくなった。「国は障害者の声を聞くつもりがないとしか思えない。また裏切られた」
06年に施行された現行の自立支援法により、収入に応じて福祉サービス利用料を支払う「応能負担」から、サービス費の原則1割を自己負担する「応益負担」に転換された。障害者は「生きる権利を侵害している」と抗議。平島さんら全国71人が08年10月から14地裁に提訴した。
民主党は09年衆院選で現行法廃止を掲げて政権を奪取。原告は「新たな福祉制度制定は障害者参画の下に十分議論を行う」などで国と基本合意し、和解に応じた。新法制定のため内閣府は障がい者制度改革推進会議の総合福祉部会を設け、メンバー55人の約半数に障害者・家族も入れて昨年8月末に「骨格提言」をまとめた。
元原告の一人、脳性マヒで車椅子生活を送る山下裕幸さん(31)=福岡県糸田町=は自立支援法施行後、作業所の工賃月約8000円に対し、数万円の「利用料」が発生。「人間として生きることを否定されている」と傷つき、民主政権が誕生しても国を信用できなかったが、周囲の説得で和解を受け入れた。その際、首相官邸で当時の鳩山由紀夫首相と握手し、「お互い頑張りましょう」と言葉を交わした時は期待も抱いたという。
だが今国会に提出された新法案の中身は骨格提言と異なる内容だった。難病患者を対象にするなど新要素はあるものの、部会長だった日本社会事業大の佐藤久夫教授によると、骨格提言で指摘した60項目のうち38項目が全く触れられておらず、「サービスの原則無料化」も盛り込まれなかった。佐藤教授は「当事者の声が反映された内容とは言えない」と批判する。
厚生労働省障害保健福祉部企画課は「新しい理念や目的を盛り込んでおり、骨格提言の内容もできる限り盛り込んでいる」と説明するが、民主政権を信じた障害者の落胆は大きい。山下さんは「和解しない方が良かったのでは」と怒りをにじませ、部会メンバーの一人、NPO法人障害者インターナショナル日本会議の尾上浩二事務局長も「骨格提言は100ページ超あったのに、厚労省が当初示してきた新法案は4ページ。あまりに不誠実だった」と憤っている。【蒔田備憲】