2011.07.29
障害者への差別をなくし、障害のない人たちと共生する社会を目指す障害者基本法改正案が28日、参院の内閣委員会で全会一致で可決した。法案作りには障害者もかかわり、民主党がマニフェストで掲(かか)げた障害者制度の抜本的見直しに向けた基本方針となる。29日の参院本会議で可決、成立する見通し。(有近隆史、生井久美子、森本美紀)
今回の改正では、制度など社会的に受ける制約も「障害」の定義に加えて対象拡大。障害の有無にかかわらず、地域で共生できる環境整備を目指す。そのため教育や医療、介護などの場で、障害の有無にかかわらず受けられる配慮を国や自治体に求めている。
災害時に必要な情報が的確に伝えられるようにすることも国や自治体に義務付けた。選挙や司法手続きでは、障害者の権利が守られるよう意思疎通(そつう)の手段の確保や施設整備などを義務付けている。
民主党政権は、国連の障害者権利条約批准に必要な国内の法整備にも着手。福祉サービス利用時に原則1割負担を求める障害者自立支援法の廃止も明言しており、それに代わる障害者総合福祉法や差別禁止の法案作りの議論が本格化する。
障害者もかかわった基本法改正案なのに、当事者には不満も残る。28日の参院内閣委で可決した時も、傍聴席から拍手はなかった。
法案作りは、内閣府に設置された障害者制度改革推進会議がかかわった。メンバーの半数以上は当事者で、30回超の議論を重ねた。ただ、議長代理を務める日本障害者協議会の藤井克徳常務理事は「手話を言語に認めるなど前進もあるけど、最終局面で冷や水を浴びせられた。政治も期待はずれだった」と漏らす。
「冷や水」は、法案化の直前に内閣府が示した条文の素案に「可能な限り」と入ったことを指す。法案の目的通りの質を確保できない場合の、免罪符にされかねない。当事者側は「財政が許す範囲という意味で、できない時の言い訳だ」として民主党などに撤回を求めたが、6か所に入った。
内閣府の担当者は「政府内の多様な意見や立場の調整が必要で、100%できることでないと法律に書けない」と説明。自立支援法で訴訟を起こされたように、改正基本法を根拠に訴訟を起こされることへの懸念もある。
障害児が障害のない子と共に学べる環境整備では、文部科学省は「特別支援教育を求める保護者や本人もいる」と予防線を張る。7万人以上とされる精神障害者の社会的入院の解消も「可能な限り」。この日の国会審議で、細野豪志担当相は「『可能な限り』は言い訳に使うのではない。最大限努力するということだ」と答弁。それでも当事者の不安はぬぐえない。ある官僚は指摘する。「誰が『可能な限り』を判断するのか書かれていないので、官僚と障害当事者がさらに疑心暗鬼になる」。
今後の課題は、内閣府に新設される障害者政策委員会が引き継ぐ。障害者もメンバーに含め、実施状況を監視し、政府に勧告できる。推進会議メンバーでも、ある障害者インターナショナル日本会議の尾上浩二事務局長は「政策委員会の設置は、きらりと光る成果。今後の改革を強化する重要な足掛かりになる」と評価する。
改革の第2幕は、自立支援法に代わってサービスの給付や負担を示す障害者総合福祉法作り。推進会議の作業部会での検討は大詰めを迎えているが、「財源の確保を踏まえた議論が前提」とする厚生労働省との隔たりはなお大きい。この先に控える差別禁止法作りも含め、障害当事者の声を制度改革に反映するためには、政策委員会のあり方がカギを握る。
◆ 民主党政権発足後の障害者施策の流れ ◆
09年 9月 政権交代。長妻昭厚生労働相が障害者自立支援法廃止を明言
10年 1月 自立支援法訴訟の原告・弁護団と厚労省が基本合意。
障がい者制度改革推進会議が初会合。
3〜4月 14地裁で和解成立。鳩山由紀夫首相が陳謝
6月 推進会議が第一次意見まとめ
12月 同第2次意見まとめ
11年7月29日 改正障害者基本法が成立
8月 推進会議作業部会が障がい者総合福祉法案で提言
12年3月まで 総合福祉法案を通常国会に提出
12月まで 次の障害者基本計画を決定
13年3月まで 障害者差別禁止法案を通常国会に提出
8月まで 自立支援法廃止、総合福祉法を施行
→ 国連の障害者権利条約を締結
◆ 改正障害者基本法の要点 ◆
(★印は条文に「可能な限り」という記載あり)
・目的は「共生社会の実現」に
・建物や制度、慣行、観念などによる制約も「障害」
・障害のない人との地域生活を妨げない ★
・手話を言語と認め、手話通訳などの確保を進める ★
・障害のない児童・生徒と共に学べる ★
・医療・介護を身近な場所で受けられる ★
・司法の場で障害の特性に応じた意思疎通の手段を確保
・災害などで情報が早く正確に伝わるように
・障害者や有識者らでつくる障害者政策委員会を新設