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2012.03.02
憤る県内「幻の原告」 玉虫色の応益負担廃止
「約束が違う。和解した時の合意内容をほごにするつもりか」。脳性まひで両足が不自由な福井市栄町の山内敬一郎さん(57)が、厚生労働省の示した障害者自立支援法の改正案について、怒りの声を上げている。山内さんは自立支援法の違憲訴訟への参加準備を進めたが、原告団と政府の和解で提訴を中止した“幻の原告”の一人。その時の期待感が今、裏切られようとしている。
山内さんは借家での一人暮らし。移動には車いすや障害者用に改造した乗用車が必要で、食事や車への乗り込みなど、あらゆる場面でヘルパーの介助が必要となっている。
さらに年齢的な衰えから入浴や着替えも一人で難しくなった。それでも「なるべく人に頼らず自力で暮らしたい」と介護や家事援助は最小限にしている。
収入は障害者通所施設で商品の箱詰めやチラシ折りで得た八、九千円の工賃と、障害基礎年金を合わせた月額約九万円。一方、自立支援法に基づく自己負担は、二〇〇五年の成立当初、通所施設の利用料の月一万三千円と給食費などの実費で、工賃の倍以上となった。その後、軽減措置が導入されたが、時には親が残した貯金を取り崩しながら生活を続けている。
自立支援法は、重い障害の人ほど負担が増える「応益負担」の仕組み。これを受け入れがたかった山内さんは二〇〇九年秋、自立支援法の違憲訴訟第三次原告団に加わる準備を進めた。
しかし同じ時期に自立支援法の廃止を公約した民主党が政権につき、政府は七十一人の原告団と和解。「国は応益負担制度を廃止し、新たな法をつくる」としたため、納得した山内さんは計画していた提訴を見送った。
ところが、二月に厚労省から示された素案には応益負担制度の廃止は明確にはうたわれてはいなかった。支援の必要度と実態に差がある障害程度区分についても、施行五年後をめどに見直すと先延ばしするなど、期待はずれの内容だった。
山内さんは「鳩山(由紀夫)元首相と長妻(昭)元厚労相の謝罪は何だったのか。これではだましたのと変わらない」と憤っている。 (藤共生)
■障害者自立支援法改正案■
民主党のマニフェストを受けて、政府の「障がい者制度改革推進会議」総合福祉部会が検討。しかし廃止は見送られ、名称を「障害者総合支援法」に改めることで「自立支援法の事実上の廃止」と位置付けるにとどめた。内容でも障害福祉サービス利用の「原則無料化」が盛り込まれないなどしたため、元原告らから抗議の声が上がっている。厚労省は今国会に改正案を提出し、13年4月施行を目指している。
★写真★
障害者自立支援法の訴訟で和解の際に交わした基本合意文書を手に、「約束が違うじゃないか」と憤る山内敬一郎さん=福井市栄町で