2010.03.30
◇試練越え「やる気、責任感」
障害者自立支援法で定める原則1割負担は違憲だとして、国と奈良市に負担廃止などを求めた訴訟で和解した同市の小山冨士夫さん(53)が、これまで利用者として通っていた福祉施設のスタッフを目指し、研修に励んでいる。小山さんには知的障害があるが、訴訟を通じて精神的に強くなり、スタッフとして働けると判断された。訴訟を経て新たな挑戦に踏み出した小山さんを追った。【高瀬浩平】
小山さんは、奈良市古市町の福祉施設「コミュニティワークこッから」で約8年間、牛乳パックを再利用して紙すきで名刺やはがきを作る仕事を続けてきた。紙の表面を滑らかにし、厚さを薄くする高い技術を習得。自治体職員や医療関係者らから多くの注文が入り、やりがいを感じていた。
ところが06年4月に施行された同法で、障害者が福祉サービス利用料を原則1割負担(応益負担)することが規定された。小山さんの賃金は月額約1万3000円。そこから、施設利用料とヘルパー代約3000円、さらに食費約4000円を負担することになった。施設を辞める仲間も出てきた。「障害者だけが働くためにお金を払わなくてはいけないというのはおかしい」と、昨年4月に違憲訴訟の原告になった。
小山さんは意見陳述の原稿を何度も書き直し、奈良地裁の証言台に立った。口頭弁論では、県内の障害者や支援者たちが傍聴席を埋め、手話通訳者も入った。法廷の外でも、県内外の福祉施設を回り、支援を訴えた。和解が成立した3月29日の口頭弁論では、最終意見陳述で「いろいろな人が支えてくれて、ここまで来られた」と述べた。
◇「仲間と一緒に」
小山さんは、4月から「こッから」で、指導員の助手になるため、重度の知的障害がある利用者らをサポートする研修を受けている。同じ障害を持つ仲間として、利用者の思いをくみ取りながら行動する「ピアサポーター」の役割を期待されているが、小山さんは「リーダーというより、仲間と一緒にいたい」と自然体だ。
施設を運営する社会福祉法人「こぶしの会」理事長の藤井正紀さん(68)は「小山さんは訴訟を支援してもらったことを感謝し、やる気と責任感を持てるようになった。今後もスタッフの一人として成長してほしい」と期待している。