2012.03.07
厚生労働省は障害者自立支援法の「改正案」を今国会に提出する。障害者が参加した政府の改革会議部会による提言が十分反映されず、「表面的な手直し」と不満の声が聞かれる。
民主党の部門会議の了承を受けたものだが、2009年衆院選のマニフェスト(政権公約)で明記した廃止は見送った。名称を「障害者総合支援法」と改めることから「自立支援法の事実上の廃止」と位置づけるが、現状の枠組みを引き継いだ実体は改正に近い。
06年施行の自立支援法は、憲法25条で保障された生存権を侵害するとして、全国の地方裁判所で集団訴訟が起きていた。応益負担の原則に従うと、障害の重い人ほどサービスの負担費用が大きい。支払えなければ生活保護に頼ることになり、「障害者の自立」という法の趣旨に反するからだ。訴訟の和解文書には「廃止して新法をつくる」ことが盛り込まれていた。
就労可能な障害者に道を開く。総合支援法案に、社会参加の機会を確保することを基本理念として盛り込んだことは評価していい。現状は十分な環境が整っているとはいえず、社会の理解も進んでいない。
現在、大阪で争われている訴訟が、その一端を示している。
施設に通う41歳の知的障害者が、施設の事業の一環として野外でクッキーを販売。その際、3歳男児を歩道橋から投げ落とし、重傷を負わせた。男児の母親が障害者と施設を運営する社会福祉法人に損害賠償を求めている。
施設と障害者の関係は、一般企業と労働者の使用関係と同じなのか。法律上明確な規定がなく、原告、被告双方の主張は対立。提訴から1年以上たっても争点整理さえ済んでいない。
仮に社福法人の責任が認定されると、「施設が問題行動のある障害者を受け入れなくなり、福祉的雇用が大変なダメージを受ける」と指摘する識者がいる。また別の専門家は「障害者にとって最後の受け皿となる施設を、被害者が訴えざるをえない構図は、弱者に冷たい日本社会そのもの」と嘆く。
「障害を自己責任と感じさせるようだ」と批判があった自立支援法の基本的な仕組みそのものは総合支援法案で見直されなかった。障害者の社会参加の機会を確保することと、社会の理解を深めることは表裏一体だ。ともに容易ではないが、法案に強い推進力が備わっているとは言い難い。