2013.11.05
国民生活の最低ラインを守り、障害のある人の地域生活に安心と安定を
~生活困窮者自立支援法案を中心とする生活保護制度をめぐる一連の動きに対する声明~
2013年11月5日
きょうされん理事長 西村 直
長引く不況の下で貧困は今や国民的課題となり、中でも低所得者の割合が高い障害のある人の暮らしを直撃している。こうした問題の解消こそが求められているにもかかわらず、政府は「社会保障制度を『持続可能』なものにする」として、憲法25条に背を向ける形で生活保護制度の後退、縮減に着手した。
その第一弾は、今年8月に実施された生活保護基準額の引き下げである。続く2014年4月と2015年4月の3回で合計約6.5%の引き下げとなる。もともと不十分な基準額の下でつましい暮らしをしてきた生活保護受給者は、今回の基準額引き下げで「これ以上、何を削れというのか」と追い詰められている。
これに対し、全国の1万人を超える受給者が、「これでは生きていくことができない」として都道府県に不服を申し立てており、未曽有の規模で反対の声が広がっている。今後、この大運動は不服申し立てから起訴に発展することも考えられるが、その場合もきょうされんはこれを支え、ともに歩むものである。
第二弾として、政府は今の臨時国会で、生活保護法改正法案と生活困窮者自立支援法案の成立を強行しようとしている。この二法案は先の通常国会において、時間切れだけではなく、国民の強力な反対の声に押される形で廃案になったが、それとほぼ同じ法案が再提出されている。このうち生活保護法改正法案については、申請時の手続きを厳しくする点、扶養義務者や同居家族の収入・資産等についての福祉事務所の調査権限を大きくする点等、問題点が明らかになっており、きょうされんとしても既に反対の意思を表明している。
一方、生活困窮者自立支援法案については議論を尽くしたとはいえず、このままでの成立は許されない。以下に、この法案の根底流れる三つの見過ごせない問題点を指摘したい。
第一は、働いて稼ぐことだけを自立とする狭い自立観だ。この法案は、生活に困った人が生活保護に至る前に働くことを支援するとしているが、これは言い換えれば「生活保護を受けて社会のお荷物にならないよう働いて自分で稼ぎなさい」ということだ。だとすると、働いても十分に稼ぐことができない障害のある人等は自立できないということになる。障害の有無にかかわらず必要な支援を受けながら生きることを自立の一つの在り方として認め、誰もが社会の中で誇りをもって生きることができるしくみこそが必要である。
第二は、労働法規が適用されない新しい働き方を生む貧しい労働観だ。この法案で提起されている中間的就労は一般就労と福祉的就労の間に位置し、一般就労に向けた支援付き訓練の場とされる。そのため、実際には働いているのに最低賃金等の労働法規が適用されないことが想定され、福祉的就労と同じ矛盾を抱えると同時に、こうした不適切な働き方を固定化させるという点で障害分野にも負の影響を与えることになろう。どんな働き方でも労働法規を適用するという観点こそが、働くことを応援するしくみには必要である。
第三は、期限を定めて自立を迫る効率優先主義だ。この法案が用意している支援メニューは、ほとんどが期限付きになっている。財源を効率よく使うための手法だが、これでは劣悪な労働条件でも、とにかく期限内に働くよう追いたてられることにつながり、一人ひとりの生活を保障するしくみとは言えない。自分なりの自立を実現することを応援するしくみは、一律に期限を区切ることと相いれないはずである。
ワンストップの相談窓口が創設される点や国等による一定の財政負担が明記された点等、この法案が示した支援策の中には民間によるこれまでのとりくみを制度化したものもあるとして評価する意見もある。確かに当面の支援策として検討の余地もあるが、前述した問題点は、本質面においてそれをはるかに上回るものがあり、到底容認できない。きょうされんは、拙速と言っていい今般の生活困窮者自立支援法案について、一旦白紙に戻すことを提案する。その上で、精緻な実態把握と当事者ニーズをもとに、国民合意を形成しながら、真に福祉政策と労働政策を結び付けた本格的な生活困窮者政策を確立すべきと考える。