2012.03.06
政も官も、国民との約束を平気でほごにして恥じる様子もない。不誠実な政治の失敗例が、また一つ増える。
民主党は障害者自立支援法の改正案を了承、今国会への法案提出を目指す。新たに難病患者も対象に加えたが、懸案の「障害程度区分の廃止」「サービスの原則無料化」などは盛り込まれなかった。
自立支援法は「改正」ではなく「廃止」して新法を制定する―。2009年の同党の衆院選マニフェスト(政権公約)にはそう明記されたが、またも「言うだけ」で実現せず、見送られることになる。
しかし、廃止は単に民主党の公約にとどまらず、司法の場での公の「約束」だったことを忘れてはならない。
06年施行の障害者自立支援法は、福祉サービスの利用に応じて原則1割を自己負担する「応益負担」とした。障害が重い人ほど支払いが増えるため、全国の障害者が強く反発。提訴が相次いだが、原告と国は10年、合意文書に「廃止と新法制定」を盛り込み、和解に至った経緯がある。
いわば「廃止」は、和解の前提条件。2年の時間を空費したあげく、約束を軽々に覆すことは原告への裏切りに等しく、決して許されない。
一方、厚生労働省がまとめた改正案は、当事者が求めていた新法から大きく後退。名称を「障害者総合支援法」と改め「表紙」を替えることなどで自立支援法の「事実上の廃止」と言い張るが、全くの詭弁(きべん)と断ぜざるを得ない。
何より看過できないのは、政府の「障がい者制度改革推進会議」総合福祉部会が、昨年8月にまとめた骨格提言の内容を、ほぼ無視した点。
同部会は障害者団体代表ら55人が結集。従来の恩恵的な「障害の医学モデル」から、誰もが障害があっても社会参加できるよう地域支援体制を充実させるという「障害の社会モデル」への転換を促す60項目もの提言をまとめた。
にもかかわらず、改正案に不十分でも取り入れられたのはわずか3項目。同会議の東俊裕担当室長は松山市の講演で「『これはなんだ』と怒りの声が渦巻いた」と訴えた。すべての反映は難しいとしても、当事者の声を形だけ聞いて取り入れないという厚労省の姿勢は言語道断である。
新法では現場が混乱する、と言い訳するが、小手先の改定を繰り返す国の姿勢こそ混乱の元凶。また負担は、既に軽減措置がとられ、一部改正で4月から支払い能力に応じた応能負担になるというが、「原則無料」とは理念において全く別物。障害程度区分も「3年をめどに見直す」と、ただ先送りしたにすぎない。
一体、誰のための支援法なのか。そのことを真摯(しんし)に問い直し、一刻も早く新法制定に取り組んでもらいたい。