2011.08.07
「すべての人の社会」 2011年8月号
日本障害者協議会常務理事 藤井 克徳
障害者基本法の改正案をめぐる審議は、衆院に続いて参院でも淡々と進められた。呆気なささえ覚えた。衆院での確認答弁をもう少しかさ上げしてくれるのでは、良識の府らしい独自の切り込みがあるのでは、そんな期待感が叶わないままの幕切れとなってしまった。そもそも、これほどの規模の法律案にしては審議時間が短すぎる。衆院では2時間30分間、参院では国会の不文律もあって衆院の審議時間を超えることのない2時間10分間だった。参院では修正が成されず、衆院から送られてきた修正改正法案がそのまま追認される形となった。参院審議の直後、型通りの採決が行われた(7月28日正午過ぎ)。全会一致とはいうものの、議場からも、そして埋め尽くされていた傍聴席からも、誰一人として拍手をする者はいなかった。改正法の出来栄えであるが、はっきり言って現行法と比べれば明らかに前進している。しかし、あれほどの懸命な論議を重ねた障がい者制度改革推進会議の第二次意見からすれば大幅な後退感は否めない。議員と傍聴者それぞれの複雑でこもごもの気持ちが、採決時の何とも言いようのない雰囲気を醸し出したに違いない。
とは言え、基本法改正法案の締め括りの場となった参院内閣委員会は、いろいろな顔を見せつけてくれた。「障害」に対する国会(政党)の水準を垣間見る思いだった。むろん効果的な確認答弁も交わされた。以下、主要なものの一端を紹介する。
まず唖然としたのは、自民党議員の発言だった。「・・・。そうしたさりげなく優しく接するということ、これが大切だと思います。そして、障害者自身も特別な権利意識は捨てて社会に溶け込んでもらいたいと思います。」に続いて、これに重ねるかのようにもう一人質疑に立った議員からも「障がい者制度改革推進会議が昨年まとめた第二次意見につきまして、私の一番最初にばっと見た印象をちょっと申し上げたいと思います。いきなり権利条約という話が出てきまして、・・・やっぱり権利の問題なのかなということを一つ思いました。」と。「弱点がある改正法案だけれど、政権交代してなかったらこれすらにも届かなかったように思う」、傍聴していたある母親の小声での一言が印象的だった。
注目の「可能な限り」(6か所に表記)については、大半の議員から質問がぶつけられた。確認答弁として紹介しておきたいのは、細野豪志大臣による
「・・・可能な限りというこの文言がエクスキューズに使われることがあってはならないというふうに考えます。・・・これは言い訳に使う言葉ではなくて、基本的な方向に向けて最大限努力をする、そのことをもって可能な限りやるということを言っているということでございますので、しっかりとその趣旨を踏まえて、今後様々な政策を実現をしていきたいというふうに思います。」との答弁だ。この弁についての障害当事者側の反応は厳しい。「本当にそうだとしたら削除すべきだったのでは」と疑間は晴れない。大臣の答弁が本物になるかどうか、官僚を御せるかどうか、まずは間近に迫った「障害者総合福祉法」づくりで試されることとなろう。
改正障害者基本法は既に8月5日から施行となった。ただし、新設の障害者政策委員会だけは1年以内となっている。障害者政策委員会(推進会議もここに吸収される)が、どんなふうに形成されるのか、障害者総合福祉法の法案づくりの行方と合わせて、ポスト障害者基本法改正の最大のテーマとなろう。これらの過程で、改正基本法の評価の輪郭がいよいよ鮮やかになるに違いない。