2012.07.13
政府が障害者関連の法律を整備しているね。障害者権利条約と関係があると聞いたんだけど、それはどんな条約なの?
記者 障害者の人権を守るため、国連で06年に採択された条約です。既に国際人権規約という人権条約はありましたが、障害者は通常、障害のない人々より差別に直面することが多いので「障害者の人権」に絞って条約化されました。7月5日現在、欧州連合(EU)、インド、ブラジル、中国など117カ国・地域が批准しています。日本は署名したものの批准はまだです。ちなみに「署名」とは「条約の内容を確認しました」という意味で、「この条約を守ります」と約束するのが「批准」です。
Q 日本はなぜ批准しないの?
A 政府が11年の障害者基本法に続いて、今国会で総合支援法を成立させ、更に13年には障害者差別禁止法と、障害分野の重要な法律の改正・制定作業を進めているのは、その準備なんです。国内の法律を条約の中身に見合うよう見直した上で批准するつもりなんです。
Q その「条約の中身」で一番大事なポイントって何?
A 最大の意義は合理的配慮を締約国に義務付けたことでしょう。合理的配慮とは、障害者が必要とする支援は社会が準備すべきだという考えです。例えば車椅子の人の就職先はビルの3階だけど階段しかない場合、「階段を使えないのは本人の問題」とせず、エレベーターの設置や職場を1階に移すなど、会社側が職場環境を整える責任を負うわけです。権利条約は、第2条で合理的配慮の否定が障害者差別に当たると定義し、教育と雇用分野で配慮義務を課しています。
Q 考え方は立派だけど、現実はお金がかかるよね。今の例え話で出たエレベーターもただで設置できるわけじゃないし。
A 条約はその点も考え、義務を果たす側に「過度(かど)の負担を課さない」とも言っています。ただ、経済大国の日本は途上国などに比べ「過度の負担」に当たる状況は限られるでしょう。そもそも合理的配慮の理念は、90年に米国で制定された「アメリカ障害者法」が起源です。医療福祉分野の予算が少ない「小さな政府」の米国でもこうした理念が生まれ、国内総生産に占める障害関連予算の割合は1・47%と、少なくとも日本の0・96%より高いんです(07年統計)。
Q へー、意外だなあ。
A イギリスやドイツなど欧州では2〜5%台です。お金の使い方を考えさせられますね。日本が権利条約を批准するなら、財源の有無だけでなく「条約の理念をどうすれば実現できるか。そのためにどれだけ予算が必要か」という視点こそが必要でしょうね。(社会部)