2009.05.14
障害者自立支援法見直し法案についての見解
きょうされん常任理事会
1.はじめに
2月12日に与党障害者自立支援に関するプロジェクトチーム(以下、与党PT)は「障害者自立支援法の抜本見直しの基本方針」を示し、「介護保険との整合性を考慮した仕組を解消し、障害者福祉の原点に立ち返り」などとして事態が好転するかのような期待感をもたせた。
その後、厚労省は障害者自立支援法(以下、自立支援法)の見直し法案を作成し、3月31日にこれが閣議決定を経て国会に上程された。法施行当初から批判が絶えない応益負担の扱いをはじめ、全国の当事者・関係者から大きな注目が寄せられたが、結論から言うと、与党PTの意気込みは大きくトーンダウンし、今般の見直し法案は現行法の枠内にとどまり表層的な修正に終わった。
まだ政省令が示されていないため不透明な部分も多いが、この段階できょうされんとしての見直し法案に対する見解を示し、今後の作業が真に障害のある人やその家族の暮らしを守る方向で進められることに寄与したい。
2.見直し法案に対する基本評価
*最大の問題点である応益負担の仕組みが明確に残ってしまった。全国からの反対の声に押される形で講じた2度の軽減策をもって応能負担と呼び変えているに過ぎず、生きるため、あるいは社会参加のために不可欠な支援を益としてこれに負担を課すという誤った政策理念は何ら修正されていない。
*介護保険との統合の布石と言われる応益負担、障害程度区分などの基本骨格は維持されたままであり、また相談支援体制の修正については介護保険の仕組みを模していると言ってよい。このように「介護保険との整合性を考慮した仕組みを解消」するどころか、統合の火種は一層強さを帯びている。
*障害のある人の地域生活を真に前進させるための必要な手立ては先送りされた。具体的には、附則にも制度化の必要性が明示されかつ最も障害当事者からニードの強い所得保障については何ら触れられなかった。また、障害の範囲については発達障害を法の対象に加えただけで、高次脳機能障害や難病などによる障害については法文に盛り込まれず、引き続き他の障害との格差を残すこととなった。
*以上の点から、今般の見直し法案は「抜本見直し」の名には値しない。当事者や関係者の声を無視して拙速な強行採決までしたという自立支援法の成立過程を想起すれば、いくら部分的な修正を重ねようがそこには拭い難い本質的な問題が潜むのであり、いったんは廃止するべきである。廃止に当たっては当事者や事業所が混乱しないよう、十分な準備と経過措置を講じることが必要であり、その上で地域生活を真に前進させるための新たな立法体系を構築するべきである。
3.見直し法案の具体的問題点
利用者負担について
1. 見直し法案の第29条第3項第2号で「(当該政令で定める額が前号に掲げる額の百分の十に相当する額を超えるときは、当該相当する額)」との規定が盛り込まれたことによって、実質的に応益負担の仕組みが残されてしまった。
2. 第29条第3項第2号で「家計の負担能力その他の事情をしん酌して」とあることから、本人以外の家族の収入も収入認定される余地を残してしまった。また利用者負担額を決めるにあたっては、障害のある人の収入が少ないことを十分に配慮する立場から、支援費制度時代同様に生活保護法による基準生活費(生活扶助費第1類及び第2類の額)の1.5倍の額を必要経費として認めた上で、本人の収入からこの必要経費を差し引いた額をもとにするべきである。
障害者の範囲について
1. 見直し法案では高次脳機能障害と難病による障害などが障害として認められていない。
2. 障害者の範囲については現在の制限列挙方式を改め、ICFや障害者権利条約といった国際的な到達を踏襲しながら、当事者や団体との協議を十分に重ねて、社会モデルの立場から環境要因などを含んだ規定を開発するべきである。
障害程度区分について
1. 必要な支援の内容と量は本人のニーズと環境要因によって規定されるべきであるにもかかわらず、見直し法案ではこの点が全く考慮されていない。
2. 見直し法案では障害程度区分の名称を障害支援区分に変えるとしているが、現在の仕組みをベースとして聞き取り項目を増やす程度の変更であれば、看板の掛け替えに過ぎない。与党PTが言うように「介護保険との整合性を考慮した仕組みを解消」するのであれば、現在の仕組みは撤廃してニーズと環境要因によって必要な支援を決める新たな仕組みを構築するべきである。
相談支援について
1.相談支援はそもそも障害のある人のニーズや生活状況などを総合的に把握するべきものだが、見直し法案では相談支援を細かく分けており、これでは利用者の混乱と不便さを増すだけである。自立支援法が構想された初期段階では、雇用・就労分野をも網羅したより総合的な相談支援体制の確立が目指されていたはずで、明らかに逆行するものとなっている。
2.相談支援事業を個別給付事業に位置づけるとしているが、応益負担が解消されなければ、利用者には新たな負担が課せられることになる。
3.社会資源や相談支援事業所が圧倒的に不足している現状を解決することが優先されるべきである。この点を放置したままで相談事業を細かく細分化するだけでは利用者は混乱し、それだけではなくサービス利用の抑制機関となりかねない。
地域における自立した生活のための支援について
1. 見直し法案では、これまで入所施設のみだった補足給付の対象をケアホーム・グループホームに拡大するとしているが、2万数千円程度の手元金では地域で暮らせない。そもそも補足給付は応益負担を前提とする軽減策として登場したわけだから、これでは地域生活の前進にはつながらない。
2. 現在のケアホーム・グループホームの低廉な報酬では一人ひとりに適した支援を確保するだけの人員配置は不可能であること、見直し法案では支援の必要度が高い身体障害のある人のケアホーム・グループホームの利用を認めたことなどから、報酬の飛躍的な増額が必要である。
3. 移動支援の中で重度の視覚障害者を対象とするものだけを個別給付事業に位置づけるとしているが、その他の障害についても同じ扱いとするべきである。
事業体系と報酬単価について
1. 見直し法案では事業体系には手を加えられていない。競争主義や成果主義に基づく現行の事業体系は解消し、労働行政と福祉行政の連結によって社会支援雇用制度(いわゆる保護雇用制度の改良版)の創設に道をひらくべきである。
2. 2009年4月から報酬が改定されているが、本体報酬はほとんど上げず加算のメニューを増やしているだけであるため、一層成果主義の色合いが強くなり多くの事業所の運営は引き続き困難に直面している。また、見直し法案においては日払い方式を継続することとしており、経験と学習を積んで力量を備えた職員の確保が困難な現状を改善するには至っていない。