2011.08.06
障害者施策の見直しに向けた基本方針となる改正障害者基本法が今国会で成立し、施行された。
改正基本法では「障害者」の定義に、心身機能の障害だけでなく、社会的な制度や慣行などの影響で生活が制限される場合を加えた。その上で、障害の有無に関係なく人格と個性を尊重し合う共生社会の実現を目指す理念を掲げた。
見直しは、障害者とその家族が委員の半数以上を占める「障がい者制度改革推進会議」の議論が基になった。当事者らの声が反映された方針を今後、施策に生かしていくことが重要になる。
新たな定義に基づき、改正法は、国や地方自治体に、障害のある人の社会参加や日常生活を制約する社会的障壁を取り除くことを義務付けた。具体例を挙げると、選挙で円滑に投票できるよう施設の段差解消や点字表記を進める、裁判では手話など意思疎通の手段を確保する‐などである。
東日本大震災では障害者に避難情報が伝わらなかったり、車いすの人の避難が遅れたりしたケースがあった。その反省を踏まえ、障害の状態などに応じた防災・防犯対策を講じることも求めた。
こうした配慮は共生社会の実現に欠かせない。法律に明記されたことは大きな前進であり、国や自治体は責任を持って取り組んでいかねばならない。
一方で、改正法は推進会議の当初案とは隔たりもある。とりわけ障害者団体などが懸念するのは、条文に多く見られる「可能な限り」という文言である。
法案化の過程で、障害のあるなしに関係なく共に学ぶ環境整備や、身近な場所で医療や介護給付が受けられる施策の実施などにその文言が挿入された。
施策を実行するためには社会の理解や多額の費用が要るのは分かる。だが、進むべき方向を示す基本法に、できない場合の言い訳ともとれる表現が入れば、政府の姿勢に疑問を持たれるのは当然である。政府は今後、着実に取り組むことでそうした疑念を解消していくべきだ。
改正基本法は、障害者権利条約の批准に向けた国内法整備の一環である。
民主党政権は、現在の自立支援法の廃止を明言している。それに代えて、理念の実現に必要な「総合福祉法」と具体的な内容を盛り込んだ「差別禁止法」の制定を目指す。
国際社会の一員として、日本は誰もが暮らしやすい社会を実現する責任がある。国内法の整備を進めるために、国会で建設的な議論を重ねてもらいたい。