2009.07.16
「作業所、新事業に活路」
障害者が働く作業所などの施設で利用者の工賃が低下している。不況で企業からの受注が激減したせいだ。工賃アップに結びつけるため、「読売光と愛の事業団」からの助成を新たな自主事業の一部に充てようとしている施設を訪ねた。
(パン作り)
「はい、パンの時間です」。島根県出雲市の「ワークケアみずうみ」で、
指導員がそう呼びかけると、三原俊弘さん(37)は、白衣を羽織った。
調理場で仲間2人とともに、パン生地を40グラムずつ取り分け、手で
次々に丸めていく。パン作りはこの4月に始まったばかり。三原さんは「戸惑うこともありますが、売れるのを期待してます」と笑みをこぼした。
主力だった自動車部品の組み立て作業の受注が昨秋から徐々に減り、今年1月以来ゼロのまま。作業が早々と終わり、ビデオを見て過ごす日もあった。この影響で昨年7月に月額9300円台だった平均工賃は今年2月、4800円強にまで落ち込んだ。
施設長の原田淑子さん(37)は「下請け作業だけでは限界。十分な工賃
を支払うには、どうしても新たな事業が必要なんです」と強調する。
コッペパンなどを製造するのは週に3日間。製造個数が少なく、工賃アッ
プは実現していない。今は障害者施設の給食用に卸したり、温泉施設で販売したりするにとどまっているが、これから販路を広げる予定で、原田さんは「地域の人にパンを喜んで食べてもらえ、働く張り合いも大きい」と語る。利用者の一人、原紀代子さん(69)はパン屋で働きたくて、3店で面接を
受けた経験があり、「希望がかなって本当に幸せです」と満足そうだった。
(Tシャツ工房)
名古屋市の地域活動支援センター「花*花」でも、自動車部品の仕事が激
減した。和田貴之さん(19)の工賃は、昨年9月の月額9000円に対し、今年5月は7500円強に。1日当たりの施設利用料550円と昼食代の350円に、工賃のすべてが消えてしまう。
指導員の安島一樹さん(30)は和田さんの個性的な絵に注目した。太陽などをモチーフに毎日100枚もの絵を描く。それをTシャツにプリントして売り出せないか。思いついて「Tシャツ工房」の準備を始めた。
同センターを運営するNPO法人理事長の江部真弓さん(51)は「施設の魅力作りのためにも得意な面を伸ばしたい」と積極的だ。
(売り上げ26%減)
厚生労働省が全国の授産施設などを対象に緊急調査した結果、今年1月の
平均売り上げは昨年10月に比べて26・7%、平均工賃は7・3%、それぞれ減っていた。東京都社会福祉協議会の調査でも、都内の作業所などの約6割が「企業からの受注が減った」と回答。この調査を担当した都社協総務部の森純一さん(39)は「新たな事業は利用者の喜びや自信につながるのでは」と評価する。
作業所などの全国組織「きょうされん」(東京)は今年6月、全国各地の独自製品を通信販売するホームページ「TOMO市」(http://www.tomoichiba.jp/)を新設。現在、約60か所の製品約700点を紹介する。事務局長の多田薫さん(48)は「全国にアピールし、収益、工賃アップに結びつけたい」と期待している。