2013.07.18
今回の参院選で、公職選挙法改正によって選挙権が回復した成年後見制度の利用者(被後見人)も投票できるようになった。権利を取り戻すため、訴訟を通じて訴えてきた被後見人は、一票を投じる喜びをかみしめている。
「うれしい。いま、気持ちがすっきりしました」。札幌市清田区の神聡(じんさとる)さん(53)は17日に期日前投票をした。2004年5月、母アイ子さん(79)が計算が苦手な神さんのために、と成年後見人になり、選挙権を失った。投票をしたのは03年11月の衆院選以来だった。
「久しぶりで、少し緊張した。(投票台に)たくさんの候補者の名前が並んでいて、こんな感じだったかなあと思いました」
神さんは11年、後見人が付いた人は選挙権を失うとした公選法の規定は参政権を保障した憲法に違反するとして札幌地裁に提訴。同様の訴訟で東京地裁は今年3月、憲法違反にあたると判断し、国側が敗訴。5月に公選法が改正され、13万6千人(昨年12月末時点)の選挙権が回復した。神さんの訴訟も18日に和解し、全国4地裁で起こされた訴訟はすべて終結した。
選挙権を失うまで、国政選挙は欠かさず投票してきたという神さん。参院選で投票率の低下がささやかれることを気にかける。
「投票しないのに『政治が悪い』という人がいる。それは許せない。投票しないで言うのはおかしい。棄権しないでほしい」
茨城県牛久市の名児耶匠(なごやたくみ)さん(50)も07年に失った選挙権を回復した。公示日の4日に投票所の入場整理券が届くと、「うれしい」と胸に引き寄せた。
ダウン症の名児耶さん。電子辞書を使いながら新聞の候補者一覧を繰り返し読む。これまで両親が投票に出かけるのを寂しそうに見送る姿に、父清吉さん(81)は胸を痛めていた。
21日には家族3人で投票所に赴く。「雨が降ろうがやりが降ろうが、3人で行く。6年ぶりに取り戻した一票だから」と清吉さん。匠さんも心待ちにしている。
■支援のあり方に課題も
後見人や投票所の職員らによる支援のあり方には課題も残る。
後見人が悩むのは「投票意思をどう確認するか」。大阪市成年後見支援センターが6日に開いた研修会では、井上雅人弁護士が(1)政治や選挙の話題をもちかけ、関心の有無を判断する(2)投票意思の確認が難しい時は複数の支援者で確認を試みる――といった取り組みをアドバイスした。
成年後見制度を利用する822人が選挙権を回復した神奈川県相模原市は、投票所の職員に法改正を説明し、後見人が投票所内までは同行できないことも伝えた。市選管の担当者は「意思確認が不十分な場合などは投票できないケースも出てくるのではないか。投票所で後見人から相談を受けることも考えられる」と話す。
【五十嵐透、市川美亜子】