2013.12.04
障害者権利条約に恥をかかせないで
~障害者権利条約の締結にあたって~
2013年12月4日は、日本の障害のある人とその関係者にとって生涯忘れられない日となった。この日、国会は国連の障害者権利条約の承認案を参議院本会議で可決し、正式に承認したのである。国連に加盟する国と地域の中で139番目となる。
障害を理由とする差別はやめて、障害のある人に障害のない人と同等の権利と地域生活を保障することを世界のルールにしようと高らかに謳うこの条約は、2006年12月に国連で採択された。日本政府は2007年9月にこの条約に署名し、2009年3月には締結に向けた準備を整えようとしたが、日本障害フォーラム(JDF)をはじめとする障害団体が「締結に値する国内法制の改善が先で、現時点での締結は時期尚早だ」と主張したことで、この時は見送られた。
あれから4年9ヵ月弱を経て、ようやくこの日を迎えることができたのである。この間、2度の政権交代の中で、障がい者制度改革推進会議及び障害者政策委員会等、障害のある当事者が過半数を占める会議体での検討を軸として、障害関連法制の見直しが図られてきた。そして2011年6月の障害者基本法改正成立に始まる一連の法整備は、2013年6月の障害者差別解消法成立をもって、障害者権利条約を締結するための一応の条件が整ったのである。
きょうされんとしてもこの度の締結を歓迎するとともに、関係各方面の努力に敬意を表するものである。
しかし、障害者基本法も障害者差別解消法も障害のある人と関係者が望む水準には到っておらず、ともに3年後の改定時に持ち越された課題があることを忘れてはいけない。障害者総合支援法に至っては、総合福祉部会が示した骨格提言とは程遠い内容で、さらなる見直しが切実に求められている。
以上を踏まえれば、今回の締結は、一層の制度改革を推進し国内の障害施策を障害者権利条約の水準まで引き上げる新たなとりくみの始まりと言える。そこで、今後の制度改革の進捗をはかる指標を3点、示しておく。
1点目は災害時の障害者支援の在り方である。東日本大震災での障害者の死亡率は全体の死亡率の約2倍だった。この数字が示す命の格差を解消するための手立てを講じる必要がある。
2点目は最低限の文化的な生活を送ることができるための所得保障である。きょうされんの調査では、福祉的就労に従事する障害のある人の約85%が相対的貧困線と言われる年収112万円以下であり、高齢の親等により生活が支えられている。これでは、障害のない市民と同等の生活とは言えないことは明白であろう。
3点目は精神障害者の社会的入院問題である。精神科の平均在院日数は約284日で一般病床の平均が約17日であることと比較して余りに長い(厚生労働省「病院報告2013年8月」参考)。地域の受け皿がないために本人が望まない入院を余儀なくされている状況を一刻も早く解消するべきである。こうした事態が改善されなければ障害者権利条約の締結は形だけのものとなり、この条約に恥をかかせることになってしまう点を銘記すべきであろう。
今後、日本政府は2年以内に国連の障害者権利委員会に対して国内で講じた措置について報告し、その後も少なくとも4年ごとに報告をすることが義務付けられている。この報告の作成にあたっては障害団体からの意見を聴くよう要請されており、官民をあげたさらなるとりくみは障害者権利条約の要請でもある。
きょうされんは国内の障害団体や関係機関との連携はもちろん、幅広い国民とも連帯を深めながら、障害のある人が障害のない人と同等の地域生活を送ることができる社会の構築を目指して力を尽くす所存である。
きょうされん
理事長 西村 直