2012.05.01
日本障害者協議会常務理事 藤井 克徳
「うそつき」、傍聴席から鋭く女性の声が走った。去る4月18日の衆議院厚生労働委員会での「障害者総合支援法案」の採決直前のシーンだ。女性の声の後で一瞬の静寂が生まれたが、一瞬とはいえ厚生労働委員会のたじろぎにも思えた。しかし、議場を蔽おおうよどんだ空気がすぐさまそれを吸収してしまった。気を取り直すかのように委員長(議長)の声が小声で響く。
「御静粛に願います」と。そして「次に、ただいま可決いたしました修正部分を除く原案について採決いたします。これに賛成の諸君の起立を求めます(ここで賛成者起立)。起立多数。よって、本案は修正議決すべきものと決しました」こう続いた。
6年半前の自立支援法案の委員会採決時の再現をみる思いだった。
それにしても、「うそつき」とはよく言ったものだ。嘘とは一度つくとそれで収まらないという特性を持っているが、今回も例外ではない。最初の嘘は、厚労省や与党が国民との間で約束したことに背を向けたことである。その最たるものが障害者自立支援法違憲訴訟に伴う基本合意文書を破ったことである。骨格提言の無視や政府要人の一連の発言をひるがえしたことなどと合わせて、国家的規模での嘘と断じてよかろう。次なる嘘は、嘘を前提として誕生した障害者総合支援法をもって、「自立支援法を廃止し、基本合意文書を遵守している」と居直ったことである。全体のつじつまを合わせるには、内容面でもこう言い通すしかないのだろう。「応益負担問題については、いわゆるつなぎ法の時点で解決している」と強弁して憚らないのも立たない嘘と言える。結局は最初の嘘が新たな嘘を呼び込み、嘘の連鎖の上に「障害者総合支援法」が成り立ったのである。
ふと脳裏をかすめる。こんなことは障害分野だから許されるのか、国民全体に直結する問題だったらどうだろうと。もしも障害分野だけに許されるとしたら、それは障害者差別以外の何ものでもない。徹底した検証が成されなければならない。
ところで、政府与党は障害者総合支援法をもって新法と言うが、これについての見解を明確にしておく必要がある。現実の社会に身を置く我々は、たとえ問題にまみれた法律であってもその中で生きて行くしかないのである。いかに運用し、いかに改善を重ねていくかが重要になるが、「新法」なるものの診たてを誤るとこれらが的外れになりかねない。結論から言えば、新法には値しないということである。その理由はいくつもある。先に掲げた国会審議(衆院厚労委員会)において、自民党議員によって「この法律は障害者自立支援法という土台を基礎として一部手直しを加えて衣がえをしたものであるということは、万人の目に明らかであると思います」と指摘されたが、政府側からはまともな抗弁はなかった。また、新たな法律案と言うのであれば、衆院委員会での審議時間が3時間コースというのはあり得ない。あの自立支援法の折には衆院だけでも80時間余りの審議時間が確保された(参院厚労委員会では60時間余り)。「3時間コース」で済ませようというのは、政府与党自らが軽微な「改正法」と言っているも同然ではないか。さらに、法律番号が「第123号」と付されているが、これは2005年10月31日に可決成立した自立支援法と同じである。
障害者総合支援法を称して、「可能な限り法」とか「骨格提言背任法」などと揶揄されているが、「自立支援法上塗り法」というのもある。単純な揶揄とは思えない。これらの中に、当面の対処方法が、そして長期的な視点を含む新たな運動のあり方が込められているように思う。