2012.02.29
「裏切りだ。国は約束を守れ」−。国が廃止を約束した障害者自立支援法の延命を図る新法案を厚生労働省が明らかにしたことで、県内でも同法違憲訴訟の元原告をはじめ障害者らの怒りの声が広がっている。同案を議論する民主党障がい者ワーキングチーム(WT)の意見を踏まえ同省が出した修正案でも廃止は見送られた。元原告らは29日の民主党の厚労部門会議(長妻昭座長)を注視する。闘いは続く。
元原告の五十嵐良さん(38)=さいたま市中央区=は8日、厚労省が内閣府の障がい者制度改革推進会議の総合福祉部会に示した新法案に目を疑った。障害者を含む同部会委員55人が首相の要請でまとめた新法のための骨格提言とはかけ離れていた。部会を毎回傍聴した五十嵐さんは「提言は日本の障害者施策の軸になるはずだった。節電で暑い会場で委員は命を懸けて議論していたのに、こんなに提言内容が削られるなんて」。
2006年に施行された自立支援法は、障害者に食事やトイレ介助の福祉支援にまで原則1割の利用料を支払わせる応益負担制度を導入した。障害が重い人ほど負担が増える仕組みだ。生活を圧迫された障害者や家族は生存権などを侵害する同法は違憲として、全国14地裁で一斉提訴した。
脳性まひのため車いすの生活を送る五十嵐さんも、自分の仕事場である作業所に利用料や食事代を払わなければならない理不尽さに怒りを覚え、訴訟団に加わった。
自民党に代わり政権の座に就いた民主党は、同法廃止と13年8月までに障害者の意見を尊重した新法制定を訴訟団に確約し、基本合意文書を取り交わした。
これを受けて同訴訟は和解。新法のための同部会が発足し、国連の障害者権利条約と合意文書を柱にした骨格提言がまとめられた。自立支援法とは支援体系から違っている。五十嵐さんは、障害者を“保護の対象”から“権利の主体”と位置付けた理念に心躍らせた。「これで人間として認められると、新法案に期待した」と語る。
だが、期待は崩れた。新法案は廃止ではなく改正。福祉支援の利用料の原則1割負担は残り、支援の必要度を表す「障害程度区分」は施行後3年をめどに見直す。市町村非課税の低所得者は現在、福祉支援の利用料が無償だが、同世帯家族に収入があれば、それが本人所得とみなされる仕組みも残った。つまり利用料は無償ではなくなる。提言はほとんど反映されていない。
五十嵐さんは「ぜいたくしようというのではない。提言は生きるための最低限の補償で、それがほごにされた。(同法の)名前を変えても中身はほぼ同じ」と憤る。
日高市の障害者福祉サービス事業所「かわせみ」で働く元原告石井学さんは「国を信じて和解に同意したのに厚労省の案は僕らの思いを受け止めていない」と憤る。同じく元原告の村田勇さんは「今は、暗闇のどん底に落とされた感じ。政府は約束を守り、地獄の法律を早く廃止して」と訴える。