2012.08.01
刑事裁判でどんな刑罰を言い渡すべきか。その量刑判断の仕方に疑問を抱かざるを得ない。
大阪地裁は、姉を刺殺したとして殺人罪に問われたアスペルガー症候群の男(42)に求刑を4年上回る懲役20年を言い渡した。弁護側は控訴を検討する。
判決理由はこうだ。被告は十分反省していない。アスペルガー症候群という障害に対応できる「受け皿」が社会に何ら用意されていないし、その見込みもない。 だから再犯の恐れが強く心配され、許される限り長い収容で内省を深めさせる必要がある、と。
判決に通底する予防拘禁的な発想に強い危惧を感じる。
犯した罪に対し、刑が軽すぎるからと求刑を上回る判決が言い渡されたことはこれまでもある。だが、今回の判決は「再犯の恐れ」を大きな理由とする点で性格を異にする。
量刑は本来、犯罪行為にふさわしい刑事責任を明らかにすることだ。反省の有無、再犯可能性も考慮する要素だが、二次的に考えるべきだ。
こうした観点から、今回の判決は妥当性を欠くのではないか。
アスペルガー症候群は広汎性発達障害の一種である。うまく意思疎通ができなかったり、反省の態度を表現するのが難しかったりする。
この裁判には市民が裁判員として参加した。裁判官が障害の特徴などを理解し、量刑判断の在り方も含め、裁判員にどれだけ丁寧に説明したのか、との疑問もわく。
判決によると、約30年間自宅に引きこもってきた被告は昨年7月、生活用品を届けに来た姉を包丁で何度も刺し殺害した。引きこもりから抜け出せないのは姉のせいと思い込み、恨みを強めた末の犯行だった。
将来も「受け皿」が用意される見込みはないと断じている点も疑問だ。「受け皿」がないとしたら、それをつくる責任は社会にある。つけを被告に回すべきではない。
発達障害の早期発見や自立支援などを目的に、発達障害者支援法が施行されたのは2005年のことだ。
精神、知的障害と比べると遅れているが、各地に支援センターが設置されたほか、刑期を終え出所した人への就労支援も行われている。
日本発達障害ネットワーク(東京)の市川宏伸理事長は言う。
「現状では『受け皿』は十分とは言えない。だが、さまざまな取り組みがあり、刑期を終えた後、社会復帰に必要な経験を積んでもらうための中間施設を造ろうという動きもある。判決は理解に苦しむ」
この判決を問題提起と受け止め、発達障害がある人たちを支える基盤整備の速度を上げる契機としたい。